大阪地方裁判所 昭和48年(行ク)3号 決定 1973年4月06日
申立人 中島青治
右申立人代理人弁護士 梶田幸治
被申立人 吹田市教育委員会
右代表者委員長 大西昭男
右被申立人代理人弁護士 橋本敦
同 西元信夫
主文
本件申立を却下する。
申立費用は申立人の負担とする。
理由
一 申立人の本件申立の趣旨および理由は別紙一のとおりであり、被申立人の意見は別紙二のとおりである。
二 当裁判所の判断
1 本件疎明資料によれば、被申立人が申立人に対し、申立人主張の本件各就学通知をしたことが疎明される。
2 そこで以下本件各就学通知に対する執行停止決定の許否について考えてみる。
本件疎明資料および被申立人の意見の全趣旨を総合すると次の事実が疎明される。
(二) 吹田第六小学校設立に至るまでの経緯
被申立人の管理にかかる吹田第一小学校は吹田市元町に位置しているが、人口増加のドーナツ化現象の中で児童、生徒の増加が著しく昭和四七年一〇月一日現在の児童数は一、七二五名(四三学級)に達し(≪疎明省略≫によれば、昭和四八年度における新入学児を含めた児童数が合計一、七六三名に達していることが認められる。)、予測推計によれば昭和四九年度には二、〇〇〇名を突破することが見込まれ、かつ昭和四七年度においても吹田市の小学校中児童数が最も多いにもかかわらずその敷地面積は最少であり、校舎増築の余地は全くなかった。
そこで被申立人は、同校の過大化・過密化を解消するとともに、その規模を適正規模である一二ないし一八学級に近づけるために同校区内に更に学校を新設する必要に迫られたが、そのための敷地としては被申立人が辛うじて確保していた同市南清和園町四三番一号の土地以外に適地がなく、しかも同地は後記のとおり設定された新校区のほぼ西部に位置し、全体的にみて通学上便利な位置を占めていたので、吹田市は右地上に昭和四七年度に鉄筋コンクリート四階建校舎(普通教室一六、特別教室六)の建設に着工し、昭和四八年四月吹田第六小学校(一年生から三年生まで四〇七名、一〇学級)として開校する運びとなった。そして校区に関しては、吹田第一小学校と吹田第六小学校のほぼ中間を南東に縦断する主要地方道大阪高槻京都線とこれとほぼ直角に交叉する神崎川を両校校区の境界とし、右両境界と西部を走る国鉄城東貨物線を連結したほぼ三角形の地区(吹田市寿町一丁目、二丁目、中の島町、川岸町、清和園町および南清和園町が含まれる)を吹田第六小学校の校区として定められた。
(二) 吹田第六小学校の環境
同校所在地の附近にゴミ焼却場、し尿処理場、下水処理場および養豚場二ヶ所が存在し、同校北部に東海道線、西部に城東貨物線、東方にやや離れて阪急電車がそれぞれ通っており、また同校南約五〇メートルの位置に府道十三高槻線が東西に敷設される計画がある。
(1) ゴミ焼却場、し尿処理場、下水処理場等の影響
右諸施設は吹田第六小学校の南々東約二七〇メートル以上離れた神崎川沿いに所在するが、これら施設から排出されるばい煙、粉塵、臭気等の同校に及ぼす影響につき、市公害課が昭和四八年三月一九日から同月二三日まで連続五日間大気汚染測定を実施した結果、国の環境基準を下まわっており(≪疎明省略≫によれば、右測定の結果、硫黄酸化物の五日間の平均濃度は〇・〇三六PPMであり、現行基準の年平均一時間値〇・〇五PPMを下まわっているし窒素酸化物についても、〇・〇三五PPMないし〇・〇四三PPMであって、一般環境の測定値とほぼ同様であることが疎明される。なお≪疎明省略≫によって疎明される、中央公害対策審議会大気部会、硫黄酸化物に係る環境基準専門委員会が昭和四八年三月三一日、定めた「二四時間平均の一時間値が〇・〇四PPM以下」「一時間値の最高は〇・一PPM」という新基準案に関しては、≪疎明省略≫に一時間値の最高が記されていないので判断できないが、少くとも右測定においては「二四時間平均の一時間値が〇・〇四PPM以下」という基準を満たしているということができる。)
また、ばい煙、粉塵、臭気および十三高槻線が開通した際の自動車の排気ガス(窒素酸化物を含む)に関しては、吹田市における風向が年間を通じ東寄りと西寄りがほとんどである(≪疎明省略≫により疎明される)から、同校に大きな影響を及ぼすことは考えられない。
更に、本件全疎明資料によるも、大気汚染の点で吹田第六小学校が吹田第一小学校より著しく劣っている事実は認められない。
(2) 東海道線、城東貨物線等の影響について
東海道線と吹田第六小学校の教室との最短距離は約一八〇メートルであるが、その騒音は、城東貨物線の築堤により一部さえぎられており、校舎の構造も廊下をはさんで二重に窓を設けるなどして防音について考慮しているうえ、朝のラッシュ時における教室内の環境騒音もほぼ文部省の示す騒音基準内である(≪疎明省略≫によると、文部省の基準としては、「教室内の騒音レベルは、窓を閉じている時は中央値五〇ホン以下、窓をあけている時は中央値五五ホン以下であることが望ましく、また上限値は六五ホン以下であることが望ましい。」とされているのであるが、昭和四八年三月二二日の午前八時から午前九時二五分までの測定結果によれば、窓を閉じている時の中央値の最高は四八ホン、窓をあけている時の中央値の最高は五五ホンであり、上限値は六八ホンであった。また同月一四日午前八時から午前八時二〇分までの測定結果によれば、同校四階の窓を閉じている時の中央値は四六ホン、窓をあけている時の中央値は五三ホンであり、上限値は七二ホンであった。)
また、城東貨物線については騒音を避けるために、校舎の配置を城東貨物線に面しないようにし、教室と城東貨物線の最短距離を約八〇メートル以上にしてあり騒音測定の結果も東海道線のそれを下まわっているし、運行回数も一時間に二~四本と少い。
(3) 吹田市の環境悪化防止対策
ゴミ焼却場については昭和四七年六月当時洗煙装置の改造を行っているほか、引き続き集塵効率の向上を期して改造を続ける計画であるし、し尿処理場は取扱い数量も、従前一日二〇〇キロリットルあったものが一〇〇キロリットルに半減し、下水道の普及に比例して逓減しつつあるうえ昭和四八年度の下水処理場の完成とともに更に処理量が減少するよう計画中である。また将来、十三高槻線の開通にともない支障が生ずるに至ったときは、直ちに二重窓の設置等の対策を講ずることは市長はじめ教育長も住民に約束しているほか、将来の環境悪化予防に関しても種々配慮している。
以上の事実によれば、吹田第六小学校が設置された場所は、教育環境上必ずしも望ましい所とはいい難いが、その設置および場所の選定はやむをえないものであり、同校の校区の定め方も合理的であるうえ、各種公害の点も教育に支障をきたす程度ではなく将来の環境悪化予防に関しても種々の配慮がなされているか、若しくは将来なされることが予定されているのみならず、本件疎明資料によれば、被申立人は事前に申立人を含む地域住民と充分協議した上で、吹田第六小学校の通学区域を設定し、その後本件各就学通知をしたことが認められ、右通学区域の設定について裁量行為の逸脱があったということができないところであり、従って適法になされた通学区域の設定を前提としてなされた被申立人の本件各就学通知は適法なものとして容認されるべきである。
してみると、本件申立は本案について理由がない場合に該当するからこれを却下することとし、申立費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 下出義明 裁判官 藤井正雄 石井彦壽)
<以下省略>